いまチューリッヒ国際空港のバーガーキングでぱたぱたとキーボードを叩いています。中継地のアムステルダムが濃霧で、飛行機の出発が30分ほど遅れるそう。やれやれといったところですが、ほんの少し過去を振り返るにはちょうどいいタイミングかもしれません。
ユング心理学の勉強のためにチューリッヒのISAP(International School for Analytical Psychology)に留学して約2年。先日、節目の中間試験に合格することができました。30歳のときに(誰にも言わずに)立てた「30代のうちに留学」という目標をなんとか達成することができて、まずはほっとしています。自分とのこういう約束って、守れないとやけに気分が悪くなりますからね。
さて、今回の中間試験。正式にはラテン語でpropaedeuticumと呼ばれています。直訳すると予備試験、あるいはむしろ初歩試験。ユング派の臨床家訓練は前期と後期に分かれているのですが、そのちょうど中間に位置する試験です。訓練の前半はいわゆる教育分析が中心で、後期になってようやくスーパーヴァイザーのついた実地訓練(コントロール・ケースと言います)がはじまります。要するにこれでようやくユング派分析家の「入り口」に辿りついたということ。そう考えると、まだまだこれからといったところです。
この中間試験を受けるには、その前に基礎的知識を身につけた証拠として、ユング心理学に基づく象徴解釈の論文(Symbol Paper)を提出し、それが受理される必要があります。ぼくは「文化的象徴としての傷ついた治療者」についての論文を書き、とてもよい評価を受けることができました。これはそのうち自分で日本語に翻訳して、どこかに投稿することにしましょうかね。
そして試験の本番では「夢と心理学」「おとぎ話・神話と心理学」「精神医学」など、基礎的な内容についての口頭試問を受けることになります。もちろん8科目すべてが必修科目。これを4週間ですべて消化したので、振り返ってみると我ながらなかなか大変なスケジュールだったわけですが、実際にはあっという間の出来事でした。すべての試験が刺激的で、その経験から多くのことを学ぶことができた…というのはもちろん無事に合格したいまだから言えることですけれど。
同時に、この中間試験は自分の勉強がまだまだ足りていないことを痛感する機会ともなりました。もちろんそれなりにショックではあったのだけれど、それは自分にはまだまだ学べることがたくさん残されているということでもあります。これほど素晴らしいことって、人生の中にそうめったにあるもんじゃありません。
今回の中間試験の合格をもって帰国し、今後の訓練はユング派の国際協会であるIAAP所属の日本の訓練機関(AJAJ)で継続することにしました。また、帰国後は神戸(三宮)を拠点に心理療法の臨床活動に復帰する予定にしています。とは言え、その前にしばらく体を休めつつ、日本という社会にもういちど適応するための準備期間を作らないといけません。あまりにも違う文化の中でそれなりの時間をすごした後ですので、そう簡単には「日本人」に戻れないのです。じつにやっかいな話ですが、こればっかりは仕方ない。
三宮オフィスについては準備が整い次第ご案内いたしますので、たいへん申し訳ないのですが、心理療法をご希望の方はあと少しだけお待ち下さい(現時点ではウェブサイト経由での事前のお申し込みやお問い合わせにのみ対応しております)
さて、どうやら飛行機が無事に出発してくれそうです。チューリッヒでの生活、ISAPでの訓練の実際、ユング心理学に関するエッセイ、BTSとペルソナのことなど、書いてみたいことは他にもたくさんあるのですが、それはまた機会をあらためて。行ってきます。
(追記:その後、無事に日本に帰国することができました…が、チューリッヒ⇄アムステルダム便の出発が遅れた影響で人生初のロスト・バゲッジ。いきなり出鼻を挫かれた格好です。まァ…何事も急がば回れということかもしれませんね)